2013年2月12日火曜日

(人生の贈りもの)音楽プロデューサー・松任谷正隆:1 ユーミンの世界彩る「職人」


発行日 =2012年8月6日  ソース =夕刊
面 名 =夕刊be月曜3面  ページ =4
発行社 =東京  文字数 =1195

(人生の贈りもの)音楽プロデューサー・松任谷正隆:1 ユーミンの世界彩る「職人」 (60歳)

 ――デビュー40周年の妻の松任谷由実さんと、今秋、斬新な舞台をされるそうですね
 帝国劇場の101周年ということで、「新世紀」の第一歩に、全く新しい何かができないかという話をいただいたんです。考えたのは、芝居でもコンサートでもミュージカルでもないもの。「8月31日~夏休み最後の日~」と題して、最後の一日を想像しがたい形で表現しようと思っています。公演は10月7日からですが。

 ――初の脚本・演出です

 ミュージカルは僕の生理に全くあわない。演技は演技のプロ、歌は歌のプロが絶対いい。芝居は嫌いではなくて何度か観に行き「モヤモヤしたもの」を持っていたんです。それを晴らしてみたいと。脚本も書く前は自信あったんですけど、いま煮詰まってますね。

 ――1999年から第3弾まで続いた「シャングリラ」も、サーカスやシンクロナイズドスイミングと、ユーミンのコンサートとの融合に驚かされました

 あれも、サーカスの世界が僕の想像とは違いすぎて、最初は絶望的な気持ちだったんです。でも、その深さが段々おもしろくなって。今回もリハーサルの時期には、自信満々の自分が想像できるから大丈夫かな。とにかく大きなテーマじゃなく、リアルなせりふや芝居を見せたい。由実さんの歌は、日々の心のすれ違いや積み重ねを扱っているものが多いから。由実さんは背景の一人で、ストーリーテラー。ある時は図書館で本を読む人、ある時は病院に来た患者。それが場面場面で歌い出す。

 ――震災後の「(みんなの)春よ、来い」プロジェクトなど夫婦ともに新企画に挑戦されてます

 挑戦というより話がふりかかってきた時に、ふと思い出してやっている感じかなあ。ただ由実さんは、この40年弱、僕がプロデュースして今に至りますが、僕じゃなかったらもっと違ったかもという思いはありますね。彼女の生まれながらの感性や最初のアルバムで発揮したものが、時間が経つにつれて失われた気がして――。こうなろうとかこれを目指そうとか、先のことは二人の間では一切話しません。一つの曲一つの作品にしかフォーカスは当てない。売れるかどうかという、ビジネス的な嗅覚(きゅうかく)も僕にはない。でも、もし先が見通せる人間なら彼女をどうできたのか。果たしてプロデューサーの肩書でいいのか。本当は、箸の感触が忘れられず、ずっと箸を作り続けるような職人のキャラクターなんです。(聞き手・宮坂麻子)
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 まつとうや・まさたか 1951年東京都生まれ。慶応大文学部在学中からプロの音楽家に。アレンジャー、プロデューサーとして、吉田拓郎、松田聖子、ゆず、いきものがかりらの作品にも携わる。モータージャーナリストとして、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」選考委員も務める。

 【写真説明】
「5月にホテルオークラでやった由実さんの初ディナーショーも新しい試みでした」=東京都世田谷区、麻生健撮影

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