2013年5月21日火曜日

「シェールガスはバブル」に対する僕の意見 広瀬隆雄


「シェールガスはバブル」に対する僕の意見
広瀬隆雄

http://blogos.com/article/62628/
http://markethack.net/archives/51876217.html

言論プラットフォーム「アゴラ」に「米シェールガスはなぜバブルなのか?」という記事が掲載されています。

その道の専門の方が書かれた記事なので、シェールガス産出に際しての問題点が良く抉り出されていると思います。

僕が考えるシェールガスの問題点は:
1.生産に際して従来の天然ガスや石油の生産より手順(ステップ)が多く、その分、コスト高になる
2.折角、生産をはじめても、すぐにその場所から採れる天然ガスや石油は漸減し、また次の場所へ移動しなくてはいけなくなる
の二点です。言い換えれば、手間ヒマかかって、おまけにすぐ終了……これじゃ忙しいばっかりで、くたびれ儲けだよね、ということです。

ただ、シェールが伝統的な天然ガスや原油の生産方法より劣っており、何のとりえも無いのなら、どんなに投資銀行がヨイショしたところで、ブームなんて演出できませんよ。

その記事の中で完全に抜け落ちている視点で、大事なポイントは、シェールガスは「空振り」リスクが従来の油田開発より極めて低いという点です。いや、空振りどころか実際は「ここ掘れワンワン」状態になりすぎた(笑)……だからこそ、供給過剰で米国の天然ガスの価格が低迷したのです。

先ず、その点をしっかりおさえておいて欲しい。

ビジネスは確率(Odds)のゲームです。どんなに昔からの伝統的な天然ガスや石油の生産の方式の方がコストが低く、長~く生産できても、そもそも空振りばっかりで、そういう優良な油田や天然ガス田が発見できないのなら、意味無いでしょ?

上の記事の「なぜ米国でバブルが生じたか?」という説明では、ウォール街の投資銀行が社債発行や企業合併の仲介で手数料が欲しいのでバブルを演出した……という説明がされています。これはお手軽な犯人探しですね。

僕はその投資銀行に勤めていました(笑)

僕はシェールガスの開発に先鞭をつけたチェサピーク・エナジーのIPO(1993年)に関わっていました。だから当時、投資銀行の人間が何を考えていたか? ということについては、当事者の立場から意見できます。
そこで、そもそもシェールの黎明期に我々が何を考えていたのか? ということについて、ちょっと書きます。

1993年に僕の勤めていた投資銀行(S.G.ウォーバーグ)でエネルギー担当の法人マンだったラルフ・イーズ三世という人がチェサピーク・エナジーのオーブリー・マクレンダン社長を連れてきた時は、正直、萎えました。

なぜならオクラホマかどこかの、わけわかんない零細な石油会社のにいちゃんを連れて来て、IPOしたいと言うからです。オーブリーは童顔で、ボストン眼鏡をかけていたせいもあって、大学生くらいに見えました。

当時、エクソンやシェブロンなどのオイル・メジャーはアメリカ国内の油田をどんどん売却していました。喰い散らかして、不採算になった、残飯みたいな資産ばかりでしたので。

オイル・メジャーは海外の、オフショア油田のようなデカくて効率の良い案件でホームランをかっ飛ばす必要があったのです。

一方、独立系の零細な業者は、そういう残り物を大手から安値で買い取り、より安い間接費で細々と生産する……当初のビジネス・モデルは、乱暴に言えばそういう事でした。


「I don’t think we can sell this baby. Little people doing little deals……this is hardly the way to make money. There is no sex in it.(こんな売出しは成功しない。零細な奴らがチマチマした案件であくせくして……こんな残飯あさりのようなコトが、カネになるのか? だいいち投資ストーリーとしてセクスィじゃないね)」
IPOのキックオフ・ミーティングは、剣呑な雰囲気だったことを今でも覚えています。


当時は、未だ「シェール」という言葉は登場していませんでした。あくまでも従来型の天然ガス田の「取り残し」を効率的に生産するひとつの方便として、水平掘削(ホリゾンタル・ドリリング)という手法が試されていた程度です。

我々株式営業部の連中は、当時未だ確立した評判を獲得していなかった新技術には、心を動かされなかった。

そこでオーブリーは「将来のキャッシュフローを現在価値に直すと、幾らぐらいになる」という議論(=これはDCFと呼ばれる財務分析手法です)を展開した。結局、このそろばん勘定だけは、傾聴に値する議論だった記億があります。

なお、将来のキャッシュフローを現在価値に換算するやり方というのは、幾つもの想定の上に成り立っています。具体的には割引する際の金利を幾らに設定するか? 将来の天然ガスの価格をどう予想するか? などです。

でも、将来の金利や天然ガス価格をピッタリ予想できれば、苦労しませんよね?

結局、最近になってシェールガス関連で倒産する企業が出る云々というのは、そもそも天然ガスを掘り過ぎて、供給過剰になり、その結果として天然ガス価格が暴落(高値12ドルから2ドルへ)し、そろばんが狂ってしまったのが原因です。つまり成功し過ぎたことが災いのもとなのです。



でもチェサピークがIPOしようとしていた当時は、オーブリーは孤高のコントラリアン(逆張り人間)だった。

その後、破砕法(フラッキング)という手法がだんだん定着してきて、これと水平掘削を組み合わせると、従来アクセスできなかったシェール層からも天然ガスが生産できることが証明されたわけですが、これはある日突然、それが可能になり、一気にブームが来たのではありません。10年以上もかけて、改良や試行錯誤を繰り返し、ユックリ熟成されたノウハウなのです。

上で言及した記事の中に「PUD: Proved Undeveloped(確認されたが未開発の)」という資源カテゴリーがあり、この定義が曖昧なので投資銀行がムチャクチャやったという書き方がされているけれど、それは正しくない。

そんなのPUDなんて、誰も信じていませんよ!

ウォール街は狡猾な人間ばかりがウヨウヨしている処です。PUDをそのまま鵜呑みにするような「お人よし」では勤まらないし、我々が信じる事の出来るものはキャッシュだけ(笑)

ただ結果としてPUDの多くは実際にジャバジャバ天然ガスが出た! いや、天然ガスが出過ぎなくらい出ちゃった。百発百中過ぎた……。

「確認されたけれど未開発の」と定義された鉱区から、実際はどんどんシェールガスが出たのなら、それはabuse(虚偽の申請)ではありませんよね?

最近、米国の天然ガスのリグがどんどん休止しているのは、天然ガスが出ないからじゃない。余っているからです。

でも、上のグラフ(赤)のように、リグが止まれば、早晩、供給が減るわけだから、天然ガス価格は$4~$5近辺に持ち直します。そうなれば再び不採算だった鉱区も、そろばんが合うようになる……

だからシェールガスのストーリーは、未だ死んでないんです。

因みに儲かっている会社は、今のような困難な状況でもちゃんと儲かってます。

【キャッシュフロー・マージン】
EOGリソーセズ(EOG) 41%
パイオニア・ナチュラル・リソーセズ(PXD) 42%
サウスウエスタン・エナジー(SWN) 47%


もっと精緻な議論を期待します。

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