2013年4月18日木曜日

黒の放射線 牛人会


中尾明『黒の放射線』 (SFベストセラーズ、鶴書房)
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知ってる人は知ってる、ジャリ向け侵略SF。昭和40年代に書かれたものを、悪名高い鶴書房が悪名高い福島正実と組んでリプリントで出した本で、昭和50年代前半の発行と思われる。
 でもね。この本、実は奥付をひっくり返しても発行年月日が載ってないんですよ。困ったもんですよ鶴書房。勘弁してくださいよ。ま、その後あえなく倒産しちゃう訳ですけど。実際貸しがあった作家さん多かったみたいですよ。印税払いがどうこうで筒井康隆が酷い悪口言ってたのを読んだ記憶があるな。現在も稼ぎ頭の、かの『時をかける少女』も本当のところ、ここが初刊だった筈。そりゃ作家にしてみりゃ大変な事態でしょうけど。でも作品的には、豊田有恒『時間砲計画』の方が面白かった気がするなー。でもまともに読んだ記憶が皆無なので、果たして、時間砲計画とはどんな計画だったのやら。一切不明です。

【あらすじ】

 宇宙から降り注ぐ謎の放射線を浴びて、クラスメイトの顔に大きな黒あざが!あざを苦にした彼女は家出して新興宗教団体に加盟してしまう。衝撃を受けるヒロイン松田ナオミの周囲であざを持つ者は増え続け、引きこもるやつ。無理くりドーランを厚塗りして惚けるやつ。下町の中学に端を発した事件はいつしか全国に飛び火し社会現象になっていく。
 そんなある日、一緒にお風呂に入ったら、大好きなお母さんの背中にも憎い、黒いあいつが現れた!お背中流しながら、しとど号泣するナオミ。慰める母。親ひとり子ひとり(父親は炭鉱事故で死亡)、昭和ちょっといい話。
 その後黒あざのできる人は、年齢性別を問わず加速度的に世界中で増え続け、実は黒人の陰謀ではないかとか凄過ぎるデマゴーグが飛び出したりして、ロサンジェルスでは真剣な人種間暴動に発展。(黒あざが出来ても、黒人の場合、外観にまったく影響しないという真剣にやばい理屈。)
 ところで、中学生ナオミが真剣に交際を希望している、近所の大学病院医師・堀江信一は(賢明なる読者諸君に於かれては、この名前が大西洋ひとりぼっち氏のもじりであることにお気づきだろう)、黒あざを引き起こす放射線がカダル星座四番惑星から発射されており、異星生物による侵略の可能性があることを発見する。
 なんでまた、一介の青年医師がそんな天文学的発見ができたのか?
 冒頭に出てきた新興宗教団体のボスは実は密かに宇宙人と交信しており、そのナマ情報がナオミの家出した親友から伝わって、唯一大人キャラ(二十代後半)の信一は、この情報をさも己れの手柄のように堂々と世間に公表できたって訳なのである。露骨に酷い話だが、ナオミは彼のリアル嫁になる気満々なので大して気にしていない。信一さん、一躍マスコミの寵児になるし。ウフフ
 そうこうするうち、放射線はレベルアップ!黒あざの出来た人間は第二の放射線の影響を受け、意識を失くしてロボットのように操られてしまう!交通を麻痺させ、雪崩をうって街路という街路を埋め尽くし海へ、レミングの群れみたく行進していく人々。え、こんなに居たんか黒あざ患者。殆ど街中がそうじゃないか。なにせ、ケツにほくろが一個出来ても宇宙からの遠隔操作は可能だという理屈だから、実に都合のいい病気だ黒あざ病。
 ナオミの母も、ちょっと目を離した隙に行進に加わり、どこかへ行ってしまった。そして行進が常に向かう先は海!カダル第四惑星から飛来した謎の生物は海中に潜み、人間を溶かして喰っちゃうのだ!それを証拠に、見よ、海中に没した人々は二度とは帰らず、着ていた衣服の断片のみ、ユラユラ水面を漂っているばかりではないか!アァ、超残酷の世界!
 母を亡くしたナオミは思い余って信一のもとへ。大事にするよ、と肉棒を突きつける青年医師。貞操の危機と人類存亡の危機が同時にやって来て、最終的に残るのはどっちだ・・・?

【解説】

 地球は宇宙人の畜産場で、例の宗教教祖はその管理人。
 人類家畜テーマの先駆として語られる、ウィンダム『海竜めざめる』の中学生向けバリエーション。ラッセル『超生物ヴァイトン』ってのもありました。
 しかしこの小説、場面だけは最近の空疎なC.G.を使いまくるハリウッド映画みたいに派手派手なのに、いまひとつ面白くない。アクションの転がし方が解ってない。

 ・教団地下の秘密基地で、全裸で宇宙人と交信する教祖のおやじ!
 ・それを物陰から覗き見る主人公。
 ・感極まったおやじは、全裸のまま海中に潜む異生物の体内へダイブ!
 ・もういいや。お咎めなく、主人公は脱出。

 ・・・とかね。凄いことになってるのに、転がし方が下手くそな典型。
 主人公が厳重に警備されている筈の場所にまんまと潜入できて、しかもノーペナルティーで逃走できてしまうのが、物凄く不自然。教祖のおっさんでなくても、「ここの警備はどうなっとるんだ?」って叫び出しますよ。

 ・遂に捕らえられた教祖のおやじ。病院に連れ込まれ、自白剤(!)を飲まされて宇宙人の秘密をゲロってしまう!
 ・意識が回復したおやじ、勝手に騒ぎ出し、信一の持っていたメスを手に取り暴れるも、足が不自由(※そういう設定)な為ベッドから転げ落ち、メスを胸に突き立てて絶命!
 ・死んでしまったんで、仕方なく解剖してみると、脳も心臓も正体不明の青いグニャグニャした物質に作り変えられていました。

 なんだろう、このダメな感じ。
 物凄く盛り上がる要素がてんこ盛りなのに、全体として異様に地味。おやじがゲロるのが地球人のつくったクスリの作用なのもどうかと思うし、それを阻止できない宇宙人の科学力もたいしたことねぇや、と思えてしまう。
 あまつさえ、教祖は勝手に事故死!単なる医療事故じゃん!
 最後にその体内が既に人間ではなくなっている、なんて素敵なサプライズを用意してあるのに、これじゃ結果が台無し。

 ・海中に潜む敵を探索しに、海上保安庁の調査船で沖へ出た信一とナオミ。
 ・異星人は波を自在に操り、高波を起こして船を沈没させようとする。
 ・無抵抗のまま、調査船は深海へ引き摺り込まれ、信一たちは偶然甲板を離陸しようとしていたヘリコプターに乗り込んで、助かる。

 アクションの流れはこれでいいとして、問題は繋ぎかた。描写が薄いので、なんで都合よく甲板にヘリがいるのか。なんで他に誰も乗ろうとしないのか。いちいち疑問に感じてしまう。
 1カットでいいから、船長や操舵手を登場させてリアクションを取らせないと、船が一隻飲み込まれた事態の重みが出ない。

 あと、兄弟揃って異星人の餌食になる、超絶に間抜けなアメリカ人科学者とか、凄い突っ込みどころは他にも満載なので、あとは諸君、よしなにやっといて。

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